相続ノート NOTE

2016.06.13更新

< 事 案 >

 昨年父が亡くなりました。父の相続人は、母と私、父より前に亡くなった私の弟の息子Aと娘Bの4人になります。現在、AとBは未成年者で弟の妻Cと生活をしています。

 

 このような場合、どのように遺産分割協議をすすめていけばいいのでしょうか。

 

< 問 題 点 >

①未成年者が単独で遺産分割協議をすることができるか?

②親権者が代わりに遺産分割協議をすることができるか?
⇒妻CはAとBを代理して遺産分割協議をすることができるか?

 

< 回 答 ① >

 遺産分割協議を有効に成立させるためには相続人全員の同意が必要です。

 遺産をどのように分配するかを判断するには、相応の判断能力が必要になります。成人に比べて経験に乏しい未成年者については、民法上、一定の配慮をして未成年者を保護しています。具体的には、未成年者が単独で行った財産行為については取り消すことができるとされています。

 したがって、相談事例では、AとBが遺産分割協議に同意したとしても、後日、未成年者又はその親権者により取り消される可能性があります。

 

< 回 答 ② >

 では、CがAとBを代理して遺産分割協議をすることができるでしょうか?

 未成年者は、父母の親権に服します。そして、親権者は、未成年者の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表します。したがって、遺産分割協議は、法定代理人である親権者が未成年者に代わって行うことができます。

 相談事例では、CがAとBの親権者として遺産分割協議を行うことになりそうです。

 しかし、AとBの親権者であるCは、AとBの双方の代理人として遺産分割協議を行うことはできません。AとBはそれぞれ遺産を取り合う関係にあるため、AとBの利害は衝突する可能性があります。そのため、CがAとB双方の代理する遺産分割協議はAとBの利益が相反する行為にあたり、無効になります。

 

< 対 処 法 >

 では、どうすればいいのでしょうか?

 このような場合、親権者は代理人になることができない子のために「特別代理人」を選任することを家庭裁判所に請求しなければなりません。したがって、CはA又はBのために、A又はBの住所地を管轄する家庭裁判所に対して特別代理人選任の申立てをすることになります。
 もちろん、Cが申立てをしない場合でも、他の相続人のほか、AやB自身も単独で申立てができます。

 また、特別代理人候補者は、当該利益相反行為について利害関係がない人で特別代理人として適当と思われる人物にするのが一般的です。例えば、相続人でない親族や弁護士などです。

 相談事例では、CはA又はBのどちらか一方の代理人にしかなれず、代理人になれない一方の子のために、例えばCの親などを特別代理人候補者として申立てをすることが考えられます。

 なお、相談事例とは異なり、相続人が母と未成年の子の場合でも、遺産分割協議を行うことは、母と子の利益が相反するため、子の特別代理人を選任する必要があります。この場合も母と子が遺産を取り合う関係にあるため利害が衝突する可能性があるからです。

 

< 参 考 >

 ちなみに、どのような場合が利益相反行為になるかについて、判例は、親権者の動機・意図にかかわらず、行為自体を外形的客観的に考察して判断すべきという立場をとっています。

【利益相反行為にあたるとされた事案】

①親権者が第三者の金銭債務につき、自ら連帯保証をするとともに、同一債務につき子を代理して連帯保証をし、かつ、親権者と子の共有する不動産に抵当権を設定する行為

②親権者が共同相続人である数人の子を代理して遺産分割協議をする行為
 

【利益相反行為にあたらないとされた事案】

①(成年後見の事案)共同相続人の一人が他の共同相続人の全部又は一部の者の後見をしている場合において、後見人が被後見人全員を代理してする相続放棄

②親権者である母が、未成年者の継父である夫の債務の担保のため、未成年者所有の不動産に抵当権を設定する行為

③株式が未成年の子とその親権者を含む数人の共有に属する場合において、親権者が未成年者の子を代理して株主の権利を行使すべきものを親権者自身と指定する行為

 

< 勘 処 >
 相続人の中に未成年者がいる場合には、利益相反について注意すべし!

 

 

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投稿者: 岸町法律事務所

2016.06.06更新

< 事 案 >

独居の父は重度の認知症で、身の回りのことがほとんどできなくなりました。家族は全員県外に住み、日常的に父の面倒をみることはできません。父は認知症になる前、「自分のことは自分でやる。ぼけても家族の手は借りない。そうなったときは自宅を売って老人ホームに入る。」とよく言っていました。そこで、家族は、父が居住する不動産を売却したお金で父を老人ホームへ入所させることを計画しました。

 

上記事案で自宅を売却して老人ホームの入所費用を捻出することはできるでしょうか??


< 問題点 >

・重度の認知症の患者が単独で不動産を売却できるか?
⇒お父様は重度の認知症で身の回りのことをできない状態ですので、不動産の売買といった重大な判断をすることができるのかが問題となります。

 

< 回 答 >
不動産の売買は売買契約にあたります。売買契約を有効に成立させるためには、売主の不動産を売却する意思表示と買主の代金を支払う意思表示とが合致する必要があります。不動産を売却する場合、コンビニでジュースを買う場合と異なり、重大な判断が必要になりますので法律上も相応の判断能力を有していることが必要になります。

お父様はすでに重度の認知症のため、現時点で本人が不動産を売却するという重大な判断をすることは困難です。過去にそのような発言をしていたとしても、契約締結の段階でその判断をすることができないため、不動産を売却することはできません

 

それでは、不動産を売却するためにはどうしたらいいのでしょうか。

 

< 対処法 >

 判断能力が不十分な場合に不動産を売却するには、法律上二つの方法があります。

A 成年後見制度

一つは、家庭裁判所に後見開始の審判の申立てをする方法があります。家庭裁判所が後見開始の審判をするときは、成年後見人が選任されます。成年後見人は、本人の財産管理や療養看護などを行い、その事務に関して家庭裁判所に定期的に報告することが義務付けられています。
ただ、相談事例では、ご家族が全員県外のため、誰を成年後見人に選任するかという問題があります。成年後見人は、財産管理だけでなく、お父様の生活の面倒をみたり、療養看護をする必要があるため、選任された方に相応の負担がかかります。このような場合、裁判所に弁護士などの専門家を成年後見人として選任してもらうこともできます。

お父様の居住用の不動産を処分する場合、お父様がこれまで慣れ親しんだ自宅を処分することになり、本人の利益になるか否かを慎重に吟味する必要があるため、家庭裁判所の許可が必要です。事案によっては、本人の利益にならないと判断され、不動産の売却が不許可となることも考えられます。

このように、成年後見制度は、本人が事前に準備して設計できる制度ではありません。どちらかといえば、認知症などで本人の判断能力が不十分になった場合に生じる様々な不都合を解消するための制度という側面があります。


B 任意後見制度

もう一つの方法として、任意後見制度があります。

任意後見制度とは、将来判断能力が不十分になったときにそなえて、自分の生活や療養看護、財産の管理に関する事務の処理を特定の者に委託する内容の契約をし、判断能力が不十分になった時点でその契約内容に基づき本人が委託した内容を実現できる制度です。

 

手続きの概要は以下のとおりです。

 

① 委託する後見事務の検討

判断能力が不十分になった場合に、療養看護・財産管理に関する事務について、「だれ」に「どのようなこと」を委託するか(代理権を付与するか)を検討します。

 

② 任意後見契約書の作成

委任を受ける者の了承が得られたら、任意後見契約を公証役場において、公正証書として作成しなければなりません。
公正証書を作成したときは、法務局の後見登記ファイルに任意後見契約の登記されます。

 

③ 任意後見の開始

本人の判断能力が不十分な状況になった段階で、家庭裁判所に任意後見監督人選任の申立てをし、選任された段階で、任意後見契約の効力が発生します。

※ 任意後見監督人が選任される前であれば、本人又は任意後見受任者はいつでも任意後見契約を解除できます。ただし、解除は公証人の認証を受けた書面によって行う必要があります。

 

④ 後見事務の監督

任意後見監督人の選任後は、任意後見人は、任意後見監督人のチェックを受けながら、任意後見契約に記載された後見事務を実現していきます。

 ※ 任意後見監督人の選任後は、本人又は任意後見人は正当な事由がある場合に限り、家庭裁判所の許可を得て、任意後見契約を解除できます。

 

⑤ 後見事務の終了

本人が後見開始の審判等を受けたときは、任意後見契約は終了します。

 

相談事例では、お父様が認知症になる前に、例えば長男に不動産の処分や福祉関係施設への入所に関する契約の締結等の代理権を付与する任意後見契約を作成しておけば、裁判所の許可を取らずとも不動産を売却できた可能性があります。

 

< 勘 処 >

なるべく早く任意後見契約を締結すべし!


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投稿者: 岸町法律事務所

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